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2 プロパティ・マネジメントとは何か
(1)オーナー(大家さん)の代理人
(A) オーナーさんの代理人はどこにいる?
1>不動産屋さんは誰の味方?――オーナーの嘆き(その2)
以前から指摘していることですが、日本の不動産業界は国際的にみると少々不自然な状態にあるといえます。というのは、不動産の運用について完全にオーナー側の立場に立って考え、判断し、行動する役割の人がほとんど存在しないからです。
「そんなことはない。管理会社もあるし、仲介業者もオーナーの代わりに動いているではないか」。
こう反論されるかもしれませんが、実際は少し違うのです。
たとえば、講演で私はよくこんな問いかけをします。
――「不動産屋さん」の仲介で入居した人が、素性のよくわからない人でした。
家賃は滞納するし、夜遅く帰ってきて騒音をまき散らす。
注意しても聞きません。他の入居者に文句はいわれるし、ゴミの出し方も目茶苦茶なので近隣にも迷惑をかける。
退去してもらおうと思っても、入居者保護の「借地借家法」がじゃまして簡単には追い出せない。
しかも「不動産屋さん」に聞いていた連帯保証人の勤務先に電話しても、そんな人はいないという。
やっとの思いで出てもらって、新しい入居者を募集してみるが、なかなか決まらない。
不動産屋さんに聞いてみたら、「この間取りと設備ではいまの若い人には受けないので家賃を下げるべきだ。
この家賃で決めようと思ったら、前に住んでいたようなちょっと『わけあり』の人を入れるしかありませんよ」といわれる……。
こんな「わけあり」の人を仲介した不動産屋さんは、はたして「悪い不動産屋さん」でしょうか?――
正解は、この不動産屋さんは「正しい不動産屋さん」です。
なぜなら、いわゆる「不動産屋さん」は仲介業であって、お客さんを紹介することが仕事です。
それ以外の業務は、入居者審査を含めて基本的に本来の仕事ではないからです。
しかも入居者からは、家賃1か月分の仲介手数料を受け取るのが普通ですから、入居者の立場に立って仕事をするのが不動産屋さんの本来の役割です。つまり部屋を探している人の代理人、エージェントであるわけです。
見方を変えれば、部屋を借りるのが難しい「わけあり」の人に部屋を提供できたのですから、かえって「良い不動産屋さん」とさえいえるのです。
入居者とオーナー双方の利益に、同時に貢献することは事実上不可能です。
また、少々大げさにいうと、民法(108条)で禁止されている「双方代理」に抵触するといえるかもしれません。
でも、それではオーナーの立場はどうなるのでしょうか。「不動産屋さんは誰の味方?」というオーナーの嘆きを、誰が受け止めてくれるのでしょうか。
2>賃貸管理業の流れ
一方、オーナーに代わって物件を管理する賃貸管理業も、日本では独特の発達をしてきました。
もともと日本の賃貸業は仲介から発生しました。
ほとんどの会社では収益面からみてもいまだに仲介業が主流です。
30年ほど前から管理業が発生し、5〜7%程度の管理料をいただいて管理業務をすることになっています。
しかし仲介から出発して、その延長線上で管理も行うようになりましたから、入居者からは仲介手数料が入りオーナーからは管理料を得るという業態になっています。
不動産売買の仲介も同様です。宅建業法では、仲介手数料を借り手から3%、売り手から3%いただいても合法であると定められていますが、よく考えると変な話です。
売りたい人はより高く売りたいし、買いたい人はより安く買いたい。双方の利益が反するのに、それぞれから手数料を得ているのでは、双方の利益を代理しているとしか思えません。やはり「双方代理」の禁止に抵触するのではないかとの指摘が出ているのも、しごく当然といえるでしょう。
このように、これまでの日本の不動産業界には、オーナー側の立場に立って業務を推進する「オーナーの代理人」という意識は薄かったかもしれません。
日本でも、2000年に入ったあたりから「プロパティ・マネジメント(PM)」という言葉が業界で急に脚光を浴びるようになりました。
唐突ともいえる出現のしかたでしたから、耳慣れない方も多いでしょうが、不動産の証券化や日本版REIT(不動産投資信託)の解禁で、「どうやらアメリカではプロパティ・マネジメントが重要らしい」とマスコミが気づいたせいでもあります。
プロパティ・マネジメントによって不動産の運用益、収益が大きく変わるので、アメリカ人にいわせれば「不動産を買うことはプロパティ・マネジメントを買うことだ」というぐらい評価されている業務です。
そしてここ数年、ようやくプロパティ・マネジメントに取り組む人たちが増えてきました。
したがって日本の不動産業は、次のような流れをたどっているといえるでしょう。
仲介業→管理業→プロパティ・マネジメント
3>「オーナー利益の最大化」をめざす
では「プロパティ・マネジメント」とは、どんな業態なのでしょうか。
体系的な説明はあとで述べるとして、端的な特徴をいえば、それは「オーナー利益の最大化」を目指すところにあります。
たとえば私の会社(アートアベニュー)では、以前からアパート・マンションの運用に関して、完全にオーナー側の立場に立つことを明確にしてきました。
オーナーの資産を守り、高い運用益を提供することを業務の目的として、賃貸住宅の企画と運用管理を専門とする会社です。
企画とプロデュースは得意分野ですが、建築そのものはしません。
仲介は不動産屋さんにお願いするスタイルです。
たまにインターネットなどを通じて仲介の依頼もありますが、お客さんを案内したり決めたりするのは不動産屋さんにやってもらいますし、直接入居者の方が当社にこられてお部屋を決められた場合、手数料もいただきません。
アメリカではこのような分業がはっきりしていて、仲介はブローカー、運用管理はマネジメント、開発はディベロップメントと明確に区別され、それぞれまるで別業種のような扱いで確立しています。
日本のようにひとくくりで呼ばれる「不動産業」は存在しないといっていいでしょう。
プロパティ・マネージャーは日本の賃貸管理とはずいぶん違い、完全なオーナーズエージェント、大家さんの代理人役を務めます。
オーナーさんの資産の経営代行をしているという意識で、資産運用から生じる利益を最優先して考えます。
報酬も手数料ではなく、マネジメントフィーあるいはコンサルタントフィーという形で、すべてオーナーさんからいただきます。
オーナーから委託された物件を、資産運用の専門家としての立場から賃貸不動産を運用管理し、その不動産からもたらされる収益を最大化することがプロパティ・マネジージャーの役割になります。
(B) 倫理の重視とビジネス戦略
プロパティ・マネジメントのもう1つの大きな特徴として「倫理の重視」がありますが、これについては日本の業界に少々誤解があるようなので、先に触れたいと思います。
1)「倫理重視」がビジネスを拡大する
というのは、「プロパティ・マネジメント=倫理」というイメージがあまりにも先行したため、プロパティ・マネジメントの考え方がアメリカからもたらされたこともあって、「ゴチゴチの倫理主義」との印象をもたれている向きがあるからです。
実際は、決してそうではありません。むしろ、倫理を重視するのはビジネス戦略としての側面が強いのです。
CPM(不動産経営管理士)の普及を推進しているIREM(全米不動産管理協会)は、なにも宗教的な精神で「いい人になろう」運動をするために倫理を強調しているのではないと思います(中にはそういう側面の方もいらっしゃるとは思いますが)。彼らは「そのほうがビジネスになる」といういい方をしているのです。
「ビジネスになる」ということは、わかりやすくいうと「儲かりまっせ」ということ。
「われわれは70年間これでやってきて成功した。
倫理を大事にすることがビジネスにつながるのは、日本でもアメリカでも一緒ではないのか」というのです。
CPMになるための最初の授業「Ethics(倫理)」を受講したときは、当初は違和感を覚えたものです。
銀行で10ドル紙幣を両替したら1ドル紙幣が11枚戻ってきた。
さあ、そのときあなたはどうしますか?という問いかけから始まるのです。
正直に倫理的に対処すること、信用を得ることが何よりにもまして、ビジネスに良い影響を与える、という彼らの考え方は、今では私には、「その通り」と実感できます。
ただ、なんでも程度問題で、日本には日本のやり方がありますから、こうした考え方を賃貸業務のいろんな場面で四角四面に性急に押しつけるつもりはありません。
良いと思った人から徐々に、取り入れられるところから取り入れていけばいいのではないでしょうか。
2)利益相反とは?
倫理的な行動のうち、最も重要なキーワードである「利益相反行為の禁止」について、少し詳しく説明してみましょう。
「利益相反行為」とは何か。たとえば先ほどの「わけあり」の入居者のように、オーナーとの利害衝突が発生した場合、オーナーの利益に反する行為をいいます。
これには、次のような具体例があげられます。
(1) 入居者募集を自社直営店でしかしない
(2) 入居者の審査を甘くする(自社手数料の取得に重きを置く)
(3) 業者との癒着
(4) 入居者に商品を売りつける
(5)ケイレツの扱い
(1)については、あとで詳しく触れます。
(2)の「入居者の審査を甘くする」は、先ほどの不動産屋さんの例のようにしばしばトラブルを引き起こす問題です。
部屋探しをしている1人の人は、リクルートによると平均7件の物件を見るというデータがあります。
7件案内してようやく申し込みをいただく。
1日で決まることはめったにありません。「やっと手数料が入るぞ」というところまでこぎつけたが、ちょっと普通の人ではなさそうなので与信をかけたらブラックリストにのっている。
こんな場合に、オーナーから報酬をもらっていれば、ブラックであることをわかっていて入居させるのは利益相反になります。
(3)の「業者との癒着」もよくある話です。いつも仕事を発注するかわりに過度な接待を要求したり、金銭等を要求したりすればそれは最終的には、コストに跳ね返ってくるわけで、オーナーの負担に繋がります。
(4)の「入居者に商品を売りつける」行為も、しばしばみうけられます。
契約時に強制的に商品を買わせてばかりいると、「あの物件に入居すると余分なお金がかかるよ」という評判が立ってしまって、募集に支障をきたすようではまずいですよね。
(5)の「ケイレツの扱い」も大切です。
親会社が仕事を取ると必ず子会社に仕事が自動的に流れていく、というのが「ケイレツ」です。
グループ会社全体で責任を持って仕事をするという姿勢があって、それがうまく機能している分にはいいのですが、たとえば子会社の質が悪くて、それを承知で仕事を回していたら、それは問題です。
他の会社と比べて業務内容やコストがどうなのか、という緊張感がいつも必要ですね。
4)自社の利益を優先しない
さて、(1)の「入居者募集を自社直営店でしかしない」については、私が経験したわかりやすい例をご紹介しましょう。
東京の下町、JRの駅に近いある物件がほぼ1年間、2部屋ずっと空きっぱなしでした。2DKのファミリータイプです。オーナーさんから銀行に泣きが入り、その紹介で私にお鉢が回ってきました。オーナーさんがすごくいい人で、滞納はあるし空室は空いたまままのに不動産屋さんに文句をいえなかったようです。
空室には主に5つの理由がある、と私は分析しています。
I 設定家賃
II 入居者募集の仕方
III 物件の運用管理
IV 間取りの問題
V 設備・仕様の問題
この5点をしっかりクリアすれば、間違いなく決まります。私の会社がかかわりはじめたころには3戸目の空室も出ましたが、きちんと手を打ったところ1か月半で3戸全部決まりした。
私たちにしてみればごく普通で、それほど大したことではないのですが、オーナーさんはびっくりしてしまいました。何が違っていたのでしょうか。
実は、IIの「入居者募集の仕方」で、利益相反を起こしていたのです。
それまで募集していたのは地元では比較的有力な管理会社で、支店も3店ありました。
管理料も5%で、決まるごとに募集管理料を賃料の1か月分支払うという、ごく一般的な条件での管理契約です。
ところがその管理会社は、空室の情報を他の不動産屋さんに出していなかったのです。
自社の3店舗だけで直接決めようとしていました。
たしかに直接扱いだと、両者からいただけますからもう1か月分儲かります。業界では「ダブテ」とか「両手」とかいいますが、手数料が実際にはダブルで入ります。たとえば10万のところが20万になれば、おいしい商売ですから、たとえ1年間決まらなくても最終的にうちで決まればいいと考えたのかもしれません。家賃が入らなくてオーナーがいくら泣こうが、うちが儲かればいい――この利益相反はいちばんやってはいけないことなのです。
自社で直接仲介するほうが、「早く」「高く」「いい人」に契約してもらえるのなら、それは逆にやるべきだと私は思いますが、1年も決まっていないという現実がありながら、それに固執するのは立派な「利益相反」です。
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