バブルが崩壊して15年を超え、もの心がついたときにはすでにバブルが破裂していた世代が、もう大学生となり社会人になろうとしています。
長期不況にもようやく明るい兆しが見えたとささやかれていますが、その実態は一部の「勝ち組」が目立つだけで、大多数の「負け組」はいまだに寅さんの歌ではありませんが「奮闘努力の甲斐もなく……」の心境にあるのではないでしょうか。
不動産投資の世界も、その例外ではありません。バブル以前は、不動産をもち続けていればどんどん価値が上がるという「不動産神話」が生きていましたから、「借金してでも買ったほうが得」という考え方でやっていけました。しかし現在では、不動産はそのような「投機」の対象ではなくなっています。
誰もが、楽に成功する時代はとうに終わっています。冷静な「投資」の対象になり得る物件かどうかが、勝ち組と負け組とを分ける大きなポイントになっているのです。
(A)「力」のある物件とない物件
ここ数年の春の繁忙期は、東京でも例年にない厳しさを見せています。
新築アパート・マンションならどんな物件でも、春に完成したものなら完成後1カ月ぐらいでだいたい決まるものです。
戸数が多ければ別ですが、10戸程度の物件ならとりあえずいったんは満室になるのが普通です。
しかし、3月に施主に引き渡した自慢のマンションが、新築なのに6月になってもまだ満室にならないという話を聞きます。
春は年度末の異動の時期で、オンシーズンですから普通なら入るはず。
それが厳しい時代になってしまいました。
そんなことは今までなかったことなのに、はたしてそれは単に一過性の市況の問題なのか、それとも入居者のニーズが変わってきたのか……賃貸の現場が混乱しているように見えてなりません。
その一方、当社が企画した物件では空いても1週間たたないうちに決まるとか、地元の相場より20%ぐらい高く決まるなんてことが実際にあります。6階建て21戸のマンションが、完成の1か月前にすべて決まってしまったこともありました。
力のある物件と、そうでない物件の差がより激しくなってきています。
どの業界でもいわれているように、不動産賃貸業界も勝ち組と負け組に分かれてきて、中途半端な「ほどほど」がなくなってしまい、「いいか悪いかのどちらか」という状況が生まれつつあるようです。
それでも、新築はまだいいのかもしれません。
築10年、15年を経た物件は、ひとたび空いたら次がなかなか決まらないのが実状です。
オーナーが「なんとかして入れてくれ」といっても、仲介業者からは「市況が悪いから賃料を下げてください。
そうすれば入るでしょう」の返事。賃料を下げてしまえば手取り収入がダウンしてしまいます。返済計画が狂いますし、長期投資計画も見直さざるを得ません。
できれば賃料を下げるのだけは避けたいと、「ほかに何か方法はないの」と尋ねても、仲介業者は「賃料を下げるしかない」の一点張り。
あまりにも空室期間が長引くのに耐えかねて、泣く泣く賃料を値下げに応じた……こんな例は枚挙にいとまがありません。
一方、築年数を経ているのになかなか空かない物件もなかにはあります。
たとえ退去者が出ても、空室予定のお知らせをするだけで、退去しないうちに次の入居者が決まるなどというケースも、たしかに存在するのです。
今後は、「力」ある物件と「普通」の物件では、大きな差が生まれる――それが私の結論です。
(B) 10年後にあらわれる「勝ち組と負け組の差」
それでは、その両者の「差」はどこにあらわれるでしょうか。
・「普通」の物件……家賃が下落し、集客力がない
・「力」ある物件……家賃が安定し、集客力がある
つまり、家賃の下落と空室率の増大となってあらわれるのです。
「そんなことは誰でも知っている当たり前のこと」といわれるかもしれません。
しかし、その重大さをみなさん本当にはわかっていません。そこで、勝ち組のAマンションと負け組のBマンションの差をあらわしたのが、図(図表1-1 10年後の賃料予測)です。
※図表1-1 10年後の賃料予測は、書籍「アパート・マンション経営企画運営マニュアル」でご覧いただけます。
どちらのマンションも、新築時に「月100万円」の賃料収入を想定して収支予測を立てていました。
当初はどちらも空室率が5%でしたから、稼働率は95%で、95万の実効賃料でした。
10年後のAマンションは、稼働率・賃料ともに変わりません。新築時のレベルを維持しています。
一方のBマンションは、空室率が15%に上昇し、稼働率は85%に下がってしまいました。
100万の想定賃料ですから、85%の稼働率ならそれでも85万円入っている。
当初の95万円から10万円減っているだけだ……そう思うかもしれません。
しかし、皆さん甘いんです。それだけではありません。
解約がやたらに多い物件、空室期間が長い物件は、もともとの募集賃料すら下がっているケースがほとんどです。
Bマンションも、募集賃料が10%下がって90万円になってしまいました。募集賃料と稼働率が「ダブル」で落ちていったのです。
10年後に空室率が10%増加し、募集賃料が10%ダウンしたら、どうなるでしょうか。
実効賃料が76万5000円になってしまいました。新築時に「月100万円」と想定した賃料収入が、10年後には23万5000円も下がってしまっていたのです。
これは、特殊な例ではありません。空室率が10%上がるような物件は、募集賃料もたぶん10%前後下がっています。
こういうことはしょっちゅう起こり得ることだ、と思わなければいけません。賃料の下落と空室率の増加は「ダブル」でやってくるからです。
100万円の賃料収入を予定していた物件が、10年後には76.5万円ぐらいになってしまうなんて、日常茶飯事です。
さらに15年、20年経ったらどうなるか、想像しただけで背筋が寒くなる思いがするのは私だけではないはずです。
もちろん、仲介業者にも「空いたら早く決めよう」という意識はあります。
何か月も空けておくと悪い、早く決めようとは思っています。
しかし、もともとの家賃が下がったら空室は埋まっても実効賃料は下がってしまいます。
下げた賃料でいったん募集をやってしまうと、昔はいくらでやっていたなんて覚えていないもの。それだけに、もともとの設定賃料を下げないように努力し工夫することが大切なのです。
ここで、もう一度「負け組」のアパート・マンションの特徴を整理してみましょう。
「負け組」のアパート・マンション
1)解約が多い。
2)空室期間が長い。空いたらなかなか決まらない。
3)そういう物件に限って、賃料も当然、下がり続ける。
Bマンションのオーナーさんも、実は月の賃料収入100万円で30年の収支計画を組んでいたかもしれません。それを狂わせたのは、賃料の下落と空室率の増加です。こうした「負け組」の特性を解消し、長期にわたる賃貸経営に責任をもつのがプロパティ・マネジメントなのです。
(C)「新築魔力」が迷わせる
1)10年経つとはがれる「化けの皮」
では、なぜBマンションのような「負け組」のアパート・マンションがたくさん誕生、現在も続々と誕生しつつあるのでしょうか。その大きな原因の1つは、「新築魔力」「新築マジック」にあると私は考えています。
どんな物件でも、新築ならとりあえずは決まる。この現象を私は「新築魔力」「新築マジック」と呼んでいます。
新しいから、気持ちがいいからと、とりあえず新築は決まるもの。最近は新築でも決まらなくなっているから、それだけヤバいのですが……。ともかく、新築は決まって当たり前。しかし、新築で決まったからといって安心しては絶対いけないのです。
新築物件もいったん入居者が決まった瞬間から中古物件です。分譲マンションでも、よく「買った瞬間に1000万円は値が下がっている」といいますが、賃貸の場合も同様です。たとえば、春に完成した物件が賃料5万円で決まります。
夏に空いたらなかなか決まらなくて2,500円下がっちゃった……そんな例はゴロゴロしていいます。
春完成した物件と、夏完成する物件とでは、もう5%ぐらい違ってしまいます。築年数が経って古くなってくると、その差はますます広がります。
新築時には、オーナーは「ああ埋まった」と喜ぶでしょう。建築会社は「満室になった。
すごいでしょう」といって引き渡します。問題は5年、10年経ったときに、そのアパート・マンションの「真の力」が見えてくることです。俗な表現をすると、「化けの皮」がはがれてしまうのです。
5年、10年たってくると、その物件のもっている力の差が明らかになってきますから、悪い物件、差別化されていない物件は、あと1戸の空室、あと1ヵ月ぐらいの空室期間の増加なんて簡単です。手取り収入が5%ぐらいはすぐ下がりますし、20%ぐらい下がることも珍しくありません。
2)2度とこの賃料では決まらない
アパート・マンション経営は息の長い長期の事業ですから、新築時だけ良くても、それで「すべてよし」とはいえません。
したがって、新築時に満室になるのは最初だけの「ご褒美」で、その物件が築10年経ったとき、15年、20年経ったときにどうなるかを考えてつくらなければならないのです。
それが最大のテーマであり、プロパティ・マネージャーからすれば、「私は10年後のことを考えて企画しているんです」と、建築会社にはできない提案ができる最大の強みです。
多くの建築会社は物件が完成して引き渡しをしたら、そこで基本的には仕事が完了します。「ほら満室になったでしょう。すごいでしょう」といって終わってしまう。しかし、私はお客さんにいつもこういっています。
―― 新築物件を管理させてもらうときに、物件引き渡し日に
御神酒
をもって「おめでとうございます」なんていいながら、物件を訪れることがよくあります。
物件の外観を一目見て、そして中に入って一目見たら、その物件の力が瞬時にわかります。「この物件は2度とこの賃料では決まらないな」と思う物件と、「これはいいものをつくった。
10年後もきちっとお客さんが集まるいい物件だな」と感心する物件。両者の違いを瞬間的に判断できるんです。 ――
でも悲しいかな、お施主さんはそれをわかっていません。完成しておめでたいときに「もう2度とこの家賃では決まりません」とはいわないからです。
3)「金持ち父さん」のAマンション、
「貧乏父さん」のBマンション
2つの物件の違いを、もう少し具体的に述べてみましょう。
たとえば2DKをつくりました。AというマンションとBというマンションです。Aマンションは賃料7万円で決まっています。
Bマンションも7万円で決まりました。しかしBマンションは、先ほど述べたような「新築魔力」のおかげで「やっとの思い」で決まっている7万円です。
それに対してAマンションは、もう少し高く募集しようと思えば決まったかもしれない、「余裕」で決まっている7万円です。
AマンションとBマンションでは、物件のもっている「力」が違います。余裕で決まったAマンションは、10年経っても7万円で決まります。やっとの思いで決まっているBマンションは、2年経ったら6万円になっているかもしれません。
その差がオーナーには見えにくいのです。Bマンションのオーナーは、「うちは7万円で決まった。建築費が安かったからキャシュフローがいい」と喜んでいる。AマンションはBより建築費が少し高かったかもしれませんが、10年、20年、30年、そして全体のことを考えたら、そのほうが得するのは明らかです。
Bマンションのような「悪い物件」は、最後は借入金を返済できなくて競売にかかって売られてしまうかもしれません。それでも足りなくて、ほかの資産も取られてしまう可能性さえ考えられるのです。
ところで、全世界で1000万部を突破したというある本が2000年11月に日本でも翻訳出版され、大ベストセラーになりました。
『金持ち父さん貧乏父さん』(筑摩書房)です。
サブタイトルは「アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学」でした。
私はAマンションとBマンションの違いを考えるとき、この本が思い出されてなりません。
そこで本書では、余裕で決まっているいい物件を「金持ち父さんのAマンション」、やっとの思いで決まっている悪い物件を、「貧乏父さんのBマンション」と呼びたいと思います。
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